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2021.12.01

薬機法における課徴金制度の施行

 

 

2021年8月1日に課徴金制度(薬機法75条の5の2~75条の5の19)が施行されました。
現行の行政処分・罰則によっては違反行為に対する抑止効果が乏しかったため、罰金制度を定められたのです。

 

以下、くわしく解説していきます。

 

課徴金制度とは?

 

我が国において、もともと以下の4法で課徴金制度が導入されていました。

 

・独占禁止法(昭和52年導入)
・金融商品取引法(平成17年導入)
・公認会計士法(平成20年導入)
・景品表示法(平成28年導入)

 

今回施行された薬機法における課徴金制度は
薬機法第75条5項2以降で規定されています。

 

課徴金納付命令


第75条の5の2

 

第六十六条第一項の規定に違反する行為(以下「課徴金対象行為」という。)をした者(以下「課徴金対象行為者」という 。)があるときは、厚生労働大臣は、当該課徴金対象行為者に対し、課徴金対象期間に取引をした課徴金対象行為に係る医薬品等の対価の額の合計額(次条及び第七十五条の五の五第八項において「対価合計額」という。)に百分の四・五を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。


 

今回施行された課徴金制度とは、薬機法第66条に定められた、虚偽・誇大広告などの規制に違反して得た利益を徴収する制度です。
薬機法第66条1項に違反する行為(課徴金対象行為)をした者に、課徴金対象期間の売上の4.5%にあたる課徴金の納付を命令することとされています。
従来、薬機法第66条の広告規制に違反した場合、罰金は逮捕された後に課せられましたが、課徴金制度の導入後は逮捕の有無にかかわらず課せられます。

 

課徴金納付命令の対象行為

 

薬機法第66条1項は以下の通り、虚偽広告、誇大広告を禁止するものです。


(誇大広告等)
第66条

 

何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。

ここで「何人も」とあるように、この法律は製造販売する企業だけでなく、広告を掲載するメディア、インフルエンサー、アフィリエイター、ライターなど、多くの方が規制の対象となります。
また、医薬品として販売していない健康食品やサプリメントは、医薬品的な効能効果を標ぼうした場合、医薬品であるとみなされ、薬機法違反となります。
課徴金対象行為となる場合があるので注意が必要です。


 

課徴金制度の目的は?

 


医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律で禁止している医薬品、医療機器等の虚偽・誇大広告に関し、虚偽・誇大広告の販売で得た経済的利得を徴収し、違反行為者がそれを保持し得ないようにすることによって違反行為の抑止を図り、規制の実効性を確保するための措置として、課徴金制度を導入する。

 

※引用:課徴金制度の導入について 厚労省


 

薬機法第66条に定められた、虚偽・誇大広告などの規制に違反して得られた利益を取り上げることで、違反行為を抑止していく目的があります。

 

課徴金制度の背景

 

背景には、行政による下記のような問題認識がありました。

・医薬品等に関する虚偽・誇大広告や、未承認の医薬品等の広告・販売等の薬機法違反事例が散見され、違反事例は減少していない。
・業務停止や行政処分による抑止効果が機能しにくい実態があった。
・違反広告により利益を得た業者に対して、得られた経済的利得を徴収する制度が必要。

過去の事例では、ノバルティスファーマ社の受容体拮抗薬「ディオバン」の効果に関する臨床研究の不正なデータを使用することにより、企業が売上げを大きく伸ばしたことがありました。
その不当に得た利益を、社会に還元する仕組みを考える必要があったのです。

 

課徴金対象期間は?


第75条の5の2第2項

 

前項に規定する「課徴金対象期間」とは、課徴金対象行為をした期間(課徴金対象行為をやめた後そのやめた日から6月を経過する日 (同日前に、課徴金対象行為者が、当該課徴金対象行為により当該医薬品等の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して誤解を生ずるおそれを解消するための措置として厚生労働省令で定める措置をとつたときは、その日)までの間に課徴金対象行為者が当該課徴金対象行為に係る医薬品等の取引をしたときは、当該課徴金対象行為をやめてから最後に当該取引をした日までの期間を加えた期間とし、当該期間が3年を超えるときは、当該期間の末日から遡つて3年間とする。)をいう。

 

「課徴金対象期間」=①+②(法第75条の5の2第2項)
①課徴金対象行為(虚偽・誇大広告等)をした期間
②「課徴金対象行為をやめた日」から
 (a)6か月を経過する日、又は、(b)「当該医薬品等の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して誤解を生ずるおそれを解消するための措置」をとった日のいずれか早い日までの間に、当該「課徴金対象行為に係る医薬品等の取引をした」場合
つまり、 ①の期間(課徴金対象行為をした期間)に、当該「課徴金対象行為をやめてから最後に当該取引をした日までの期間」を加えた期間で、最長3年間が対象期間になります。

 

※引用 課徴金制度の導入について 厚労省


 

課徴金の計算のために書類が改ざんされたりされることがないように、第69条の5により厚労大臣は、関係者へ報告を求めるだけでなく、立ち入り検査や、帳簿書類等の提出命令等を行うことができます。

 

課徴金の納付命令が出されない場合


第75条の5の2第3項

 

第1項の規定にかかわらず、厚生労働大臣は、次に掲げる場合には、課徴金対象行為者に対して同項の課徴金を納付することを命じないことができる。
①第72条の4第1項又は第72条の5第1項の命令をする場合(保健衛生上の危害の発生又は拡大に与える影響が軽微であると認められる場合に限る。)
②第75条第1項又は第75条の2第1項の処分をする場合


 

72条4第1項(業務改善命令)、72条の5第1項(中止命令)が行われ、保健衛生上の危害の発生又は拡大に与える影響が軽微であると認められる場合には、課徴金の納付命令が出されないことがあります。
また、75条1項(許可の取消し等)や、75条の2第1項(登録の取消し等)の場合も同様です。

 

課徴金額は?


第75条の5の2第4項

 

第1項の規定により計算した課徴金の額が225万円未満であるときは、課徴金の納付を命ずることができない。

違反行為を行っていた期間中の商品売上額の4.5%です。
ただし、課徴金の額が225万円未満(売上5,000万円未満)であるときは、課徴金の納付は命じられません。
薬機法第75条の5の2第2項より、課徴金対象期間である3年間の売上合計で5000万円ということになります。
また、課徴金制度に係る経過措置として、施行日(2021年8月1日)より前に行われた違反行為は、課徴金納付命令の対象とはならないとされています。

 

※引用:課徴金制度の導入について|厚労省


 

景品表示法でも課徴金を受けた場合の納付金額は?

 


第75条の5の3

 

前条第1項の場合において、厚生労働大臣は、当該課徴金対象行為について、当該課徴金対象行為者に対し、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)第8条第1項の規定による命令があるとき、又は同法第11条の規定により課徴金の納付を命じないものとされるときは、対価合計額に100分の3を乗じて得た額を当該課徴金の額から減額するものとする。


 

商品売上額に対して、

景品表示法の課徴金:3%
薬機法の課徴金:4.5%
となっています。

 

それぞれの課徴金を合わせた合計金額ではなく、全部で売上額の4.5%の課徴金という考え方です。

つまり、景表法で売上の3%の課徴金命令が下された場合、その分は控除することができ、差額の1.5%分を薬機法違反として、納付するようになります。

 

課徴金の減額は?

 


第75条の5の4

 

第75条の5の2第1項又は前条の場合において、厚生労働大臣は、課徴金対象行為者が課徴金対象行為に該当する事実を厚生労働省令で定めるところにより厚生労働大臣に報告したときは、同項又は同条の規定により計算した課徴金の額に100分の50を乗じて得た額を当該課徴金の額から減額するものとする。ただし、その報告が、当該課徴金対象行為についての調査があつたことにより当該課徴金対象行為について同項の規定による命令(以下「課徴金納付命令」という。)があるべきことを予知してされたものであるときは、この限りでない。


 

自主的に違反行為を厚生労働大臣に報告した場合
⇒50%減額になります。

 

ただし、調査があったことにより課徴金納付命令が出ることを予測して、自主的に報告した場合は減額対象になりません。

 

除訴期間


第75条の5の5 第7項

 

課徴金対象行為をやめた日から5年を経過したときは、厚生労働大臣は、当該課徴金対象行為に係る課徴金の納付を命ずることができない。


 

時効は、課徴金対象行為をした日から5年です。

 

措置命令


第72条の5

 

①厚生労働大臣又は都道府県知事は、第66条第1項又は第68条の規定に違反した者に対して、その行為の中止、その行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他公衆衛生上の危険の発生を防止するに足りる措置をとるべきことを命ずることができる。

 

 

 1,当該違反行為をした者
 2,当該違反行為をした者が法人である場合において、当該法人が合併により消滅したときにおける合併後存続し、又は合併により設立された法人
 3,当該違反行為をした者が法人である場合において、当該法人から分割により当該違反行為に係る事業の全部又は一部を承継した法人
 4,当該違反行為をした者から当該違反行為に係る事業の全部又は一部を譲り受けた者

 

 

②厚生労働大臣又は都道府県知事は、第66条第1項又は第68条の規定に違反する広告(次条において「特定違法広告」という。)である特定電気通信(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律第137号)第2条第1号に規定する特定電気通信をいう。以下同じ。)による情報の送信があるときは、特定電気通信役務提供者(同法第2条第3号に規定する特定電気通信役務提供者をいう。以下同じ。)に対して、当該送信を防止する措置を講ずることを要請することができる。


 

課徴金納付命令と併せ、違反広告に対する行政措置として、措置命令も導入されています。

 

・違反広告の中止
・違法行為に対する再発防止策を講じ、これの実施に関連する公示
・その他公衆衛生上の危険の発生を防止すること

 

以上の命令は、厚生労働大臣だけでなく、都道府県知事にも権限が与えられています。

 

引用:課徴金制度の導入について 厚労省

 

まとめ

 

従来は薬機法の広告規制に違反した場合、刑事罰にならない限り罰金は課されませんでした。

 

しかし、課徴金制度の導入後は、逮捕されなくても行政の裁量で罰金が課されるようになりました。
課徴金も売上に対しての4.5%に上がり、大きな負担になるのではないでしょうか。

医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器その他、健康食品、ヘルスケア関連企業にとって、課徴金制度は新たなリスク事項となります。
もし違反が指摘された場合、企業としての信用が失われます。

そのため違反前のような商品の販売を行うことは難しくなることも考えられます。
場合によっては、販売中止・回収をする必要が出てくるかもしれません。

 

薬機法による広告表現への規制は、詳細に定められていますので、法律違反にならないために、社内での広告ガイドラインを作成するなど、自社の商品が訴求可能な効能範囲をしっかりと認識する必要があるでしょう。
文章だけでなく、画像も広告の表現としてみなされます。

適切な表現・不適切な表現を見極める機能を利用していくことは、広告規制の違反回避のために非常に画期的な方法であると言えるでしょう。